
委ねて、発展していく
直感が導いた、新しいビジネスの兆し
「これは、いけるな」
瞬間、胸の中心をワクワクと良い予感がサッと駆け抜けたのを覚えています。新しい道が見えたとき、いつもそうなのですがこの日もやはりそうでした。
「こんなのを、作れませんかね?」とお客様から尋ねられた時のことです。
工場の中をスキャンしたデータを整理してほしいという3D CADを使ったデータ制作のご相談でした。落ちている点を線にし、面という形にするような仕事が舞い込んできたのは、専門ソフトを導入した矢先のことだったのです。
誰にでもできる仕事ではない。けれど、今のウチにはできる。考えなくてもスラスラと言葉が出てきました。何もない社長席に座り、私は完全に無になっていたのです。商流を感じました。
委ねることで広がった可能性
ことの始まりは2月のある日。目の前にあるのはパソコンのモニタだけ。モノに囲まれているのが大好きな私が、事務所の何もないデスクでじっと考え事をしていました。ちょうど、新事業としてレーザークリーナーを購入したばかりの頃で、機械に設置するノズルやアクセサリなどを3Dプリンタで作れないかと思案していたのです。こんなのものを作りたいなあ、とイメージしながら絵を描いていました。誰かできるかな、いや自分でCADを勉強すればいいか。そう思ったのですが、その思いはすぐに打ち消しました。
「そしたら、会社が潰れるだろうな。」
ものづくりが元来好きな私は、きっとのめり込んでしまいます。会社を経営するにあたって普段は押さえている一面ですが、そういう性質(タチ)なのです。「誰か作れるやつ、いないかなあ」考えを巡らせながらパッと顔を上げると、すぐ側でモニタに向かって手を動かしている若手エンジニアが目に映りました。
そこでふと、彼に自分が描いた絵を見せて聞いてみました。「こんなの、作れるかな?」そう聞く私に、彼はこう答えました。「できると思います。やったことはないけど」彼らは、ものごとをできる方向から眺められる人間です。「できません」から話を始めないところが気持ちがよく、私はそこを買っています。「じゃあ、やってみてくれるかな」通り過ぎる電車の音だけが聞こえていました。
その2週間後。PC内の3D図面データを私に見せながら、エンジニアはうれしそうな声で「できました」と言いました。図面を見せられた私は驚きました。私が描いて見せたイメージのほとんどその通りに綺麗に仕上がっていたのです。ここまでできるとは正直思っていなかったのですが、それを見た瞬間、「これだけではもったいない」という気持ちが湧き上がりました。自社の業務に展開できると直感的に思ったのです。まず、弊社で請け負う取付部材製作に関連して、耐震補強のシミュレーションが可能になります。そのほかにもあれもこれもできる、と頭の中にイメージが広がり、それまでの海部架設工業とは違った業態ができることを確信しました。
即、投資を決断し、専門ソフトをエンジニアふたりに渡した、そのすぐ後のことだったのです。「こんなのを、作れませんかね?」―――そう取引先様から3Dを使ったデータ制作のご相談を受けたのは。新しい道が見えました。胸の中心を10代の頃のようなワクワクドキドキがサッと駆け抜け「これは、いけるな」という声が内側から聞こえてきました。

全てがつながる時がある
「全てがつながる時」というのは、これまでも何度かありましたが、このエピソードもまさにそうだったと言えます。いろいろなタイミングや出会いがうまくつながり、とんとん拍子にデスクでイメージを描いていたところから専門ソフトを導入し、若手エンジニアが使いこなせるようになるまで、水が流れるように自然に運びました。そんな時、自分の判断は間違ってなかったと思えます。
一連の流れをエンジニアが担当できることも、今では弊社の強みのひとつとなりました。もし私が、ものづくりが好きだからと自分の手を動かしていたら、こうはうまく運ばなかったかもしれません。若手に委ねて良かったと、実感しています。